皆さんは『オシァン』を知っていますか?
ざっくり言いますと、スコットランドのシェイマス・マクヴーリッヒ(ジェイムズ・マクファソン)という人が、古代の詩を集め発表したもの、でしょうか。
スコットランドはモールヴェンの国。その王であるフィンガルと、息子オシァン。勇壮な武人たち。彼らの周りで起こった数々の戦い、その武功や、男たちを慕う美しい娘たちを歌っています。
フィンガル王亡き後、オシァンは高齢まで生きたとされていますが、亡き息子のオスカルの許嫁マルヴィーナに語った一族の物語をマルヴィーナが後世に残した、とされているものがこの叙事詩というわけです。
元はゲール語で書かれたとされるものを、英訳して出版されたことがきっかけとなり、一大ブームを巻き起こしロマン主義に大きな影響を与えました。
ナポレオンもゲーテもたいへんに傾倒しました。メンデルスゾーンも影響を受けたものでしょうか? 「フィンガルの洞くつ」という曲を書いています。
今日は、トールキンアドヴェントの企画に参加させていただき、この記事を書いています。
しかし、オシァンを少しは読み返したものの、全部は読めません。過去の事ですので、思い違いありましたら、ご容赦の程お願い致します。詳しい内容につきましては、過去の、オシァンの読書感想をお読みください。
荒々しく吹きすさぶ風、青く閃く剣を携えた武者たち。盾の盛り上げ飾りを叩いては敵を追い詰め、また敗れ去ります。名誉を重んじ、歌に歌われることを望んで戦いに赴いてゆきます。彼らを慕う娘たちは、死して石積みの下に葬られた若者を思い涙にくれる。
この雰囲気、ロマンに満ちた叙事詩は、心を引き付けるものがありました。
指輪物語が好きなかたなら、きっと気に入って頂けると思います。ベオウルフにも似た雰囲気がありますね。「わびさび」とでもいうような無常感があるように感じました。ちょっと「荒城の月」の歌など思い出したりしています。
アイルランドにも、フィンと、オシーンの伝説があります。しかし、話も異なりますし雰囲気は全くちがいます。こちらは、ケルト神話の中のフィアンナ騎士団の話です。ローズマリ・サトクリフはこの神話を再話した『ケルト神話 黄金の騎士フィン・マックール』を書いています。
実は、マクファソンの『オシァン』には、偽作疑惑という議論が沸き起こった経緯があります。詳しいことはここでは省き、上記に挙げた過去の読書感想をご覧ください。
アイルランドにあるオシーン伝説を持ってきたのではないかという説は、フィアンナ騎士団の話が異なる様相を持っていることからして、無理があるような気もします。
ウィキペディアのオシァンの項 を見ると、かなりアイルランドのものを持ってきたという書き方をされていますね。かつてはここまで断定されてはいなかったようにも思いますが。
岩波文庫の、中村徳三郎氏のあとがきを読みますと、訳されたご本人ということ、時代が昔、ということで当たり前ですが、偽作説には反対の立場をとられています。真偽のほどはともかくとして、このあとがきだけでも読む価値ありです。とても美しい話がここに展開されていることが伝わってきます。
長いので、後編に分けます。